ドイツブランドのアイデンティティ?直列6気筒エンジンの特徴
かつては、世界中のメーカーが製造していた直列6気筒エンジンですが、現在、製造しているメーカーはごくわずか、その代表格がドイツのメルセデスとBMWという2大ブランドです。
2つドイツブランドが直列6気筒エンジンにこだわるのは、どういった理由があるのでしょうか?
■直列6気筒エンジンのレイアウトとは
直列6気筒は、文字が表す通りシリンダーが直列に並んだ6気筒エンジンのことです。
直6(ちょくろく)やストレート6などと呼ばれ、他のエンジンレイアウトと比べても(V12を除く)振動が少なく高出力を出すことが可能なので、かつてはミドルクラスから上のモデルに多く採用されていました。
しかしながら、2000年ごろを境に、車体の衝突安全性、居住空間確保、エンジンの共用化などの課題から、直列6気筒エンジンは減少しました。
「衝突時の安全確保はボディ側の問題で、エンジンは関係ないのでは?」と思われるかもしれませんが、自動車の安全性というのは、そう単純な問題ではないのです。
直列6気筒エンジンは、他のレイアウトと比べるとエンジン全長が長く、搭載するには長いボンネットが必要となりますが、それがクルマ作りにおいてデメリットになります。
年々厳しくなる衝突基準をクリアする方法のひとつに、車体前部にスペースを確保し衝撃を吸収させるというやり方があります。
ところが全長が長い直6エンジンの場合、前方のスペースを確保するには、エンジン搭載位置を下げることが要求され、そのクルマはボンネットを長くとるか、室内スペースを削るかを求められることになります。
その点、V型や4気筒はエンジン全長が短いので、ボンネットを伸ばすことも室内スペースを削ることもなく搭載できるため、直6が淘汰されて行きました。
また、FFレイアウトへの対応が非常に難しいことも直6が消えた要因のひとつです。
基本的にFFはエンジンを横置きに搭載しますが、全長の長い直6を横置きに搭載すると、補記類や駆動系の配置が難しくなります。
現代の自動車開発において、FFとFRで共用できないことは、コスト面で大きなデメリットなのです。
かつてボルボには、直6を横置きに配置したモデルを生産していたこともありますが、実質的には縦置きのFR用エンジンと考えて良いでしょう。
メルセデスやBMWが、直6にこだわることができるのは、ミドルクラス以上のモデルの駆動方式がすべてFRを採用しているからでもあるのです。
■直列6気筒エンジンはシルキーシックスと称される
メルセデスやBMWが直6を採用するのは車両がFRだからという以上に、メリット多く見出しているからにほかなりません。
まず一番のメリットは、振動騒音の少なさです。
直6は理論上では、完全バランスと呼ばれるレイアウトで、滑らかな回転フィールが特徴です。
そのバランスの良さと回転上昇でBMWの直6は、しばしば”シルキーシックス”と呼ばれるほどです。
また、シリンダーを左右に広げたV6に比べて、エンジンルーム内ブロックの左右に余裕があることから、ターボ化しやすく熱害も少ないといったメリットもあります。
■環境配慮と高性能の両立を考えメルセデスで直列6気筒が復活
2018年3月にメルセデスは、フラッグシップセダン Sクラスのニューモデルとして、S450を発表しました。
このSクラスに搭載された新開発の直列6気筒エンジン(M256ユニット)は、ターボチャージャーと電動スーパーチャージャーが組み合わされる、いわゆるツインチャージャーエンジンです。
加えてオルタネータとスターターの役割を兼ね備えた電気モーターが、エンジンとミッションの間に装備されます。
これを可能としたのが、各パーツの電動化技術です。
従来は、エアコンディショナーコンプレッサー、ウォーターポンプなどにクランクシャフトの回転を利用していたため、エンジン前方にベルト駆動装置が必要だったものが、電動化により省かれ、エンジンの全長を短くすることができました。
またブロック左右のスペースに余裕があるため、ターボチャージャーやスーパーチャージャー、触媒を、理想的な場所にレイアウトすることが可能となり、環境性能を高めることにも貢献しました。
■まだまだ進化をやめない直列6気筒エンジン
日本のマツダは直6エンジンを開発し、ミドルクラスの次期モデルに搭載することを公にしています。
その理由は、高性能化よりもコストの削減や環境性能にあるようで、その評判いかんによっては他メーカーも追随することになるかもしれません。
一度、廃れてしまった直6エンジンですが、ここにきて復活の兆しがあることは、クルマ好き、メカ好きとしておおいに気になるところです。