『ラテン系個性派ハッチバック』
いまやすっかり街の風景の一部となったクルマのカタチ、それがハッチバックと呼ばれるバックドアが付いた2ボックススタイルのクルマたちです。
室内や荷室の容量の確保が容易で、荷室高さも稼げることから荷物の積み下ろしも楽々。
後方の見切りも良く、車体自体もコンパクトにできるなど、セダンに代わる存在になったのには、やはり日常での使い勝手の良さやその他のメリットが大きく寄与しています。
そんなハッチバックの本場、欧州メーカーから人気のモデルを紹介します。
■ラテン系メーカーのハッチバックの歴史
さてハッチバックというスタイルは、どこから生まれたのでしょうか?
古くはフランスのシトロエンが 1938年に作ったトラクシオン・アヴァンの商用ボディが始祖とも言われますが、現在に続く系譜としてよく挙げられるのが、1961年にルノーが発表した4(キャトル)です。
ルノー 4は、1950年代にフランス国内で大衆車市場を席捲していたシトロエンの2CVに対抗するために開発されたモデルで、荷室面積や積み下ろしのしやすさなどを重視すべく、それまでRRが主流だった大衆車作りの手法を見直しFF(フロントエンジン・フロントドライブ)を採用したことが第一のトピックです。
またボディにバックドアを装備したことで車両の利便性を高めたことも、大衆車としての地位を築き上げる要因になりました。
これに対し、シトロエンは同じFFレイアウトのディアーヌを1967年に発表しますが、人気車種だった2CVにとってかわることはできませんでした。
もうひとつのフランスの自動車メーカー、プジョーは1972年に106を発売。
こちらはシトロエンにも供給され、同じ年に発売されたルノー 5(サンク)とライバル関係にありました。
日本にハッチバックを根づかせるきっかけになったのは、プジョーが満を持して1983年に発表し世界的な大ヒットとなった205でしょう。
ラリー等でも活躍し、ボディ形状も性能もまさに当時のハッチバックといえばこれだ!というスペックが揃っており、ひとつの完成形とも言えるマイルストーン的なモデルです。
いっぽうイタリアではアウトビアンキからA112が1969年に、フィアットから126、127という小さなRRハッチバックが1971~1972年に発売。
ラテン系の国々を含めてヨーロッパではハッチバックがどんどん増えていきました。
そんな歴史を持つ土地柄ですから、現代においてもフランスやイタリアはまさにハッチバックの宝庫となっているのです!
ここでは、そんなラテン系の国で生まれたおすすめのハッチバックを紹介します。
■シトロエン C3
シトロエンのC3は、初代が2002年に登場し、現行型は3代目にあたります。
もともとはかつての2CVのモチーフを取り入れた丸みを前面に出したデザインでしたが、現行型はそれらをうまく昇華しながらも、切れ長のヘッドライトと立体感のある樹脂パーツ、ボディサイドのエアバンプ(未装着もあり)など、かなり個性的なデザインに仕上がっており、街中でもひと際目立つ存在です。
さらに標準仕様でのカラーバリエーションはなんと36種類。
ミラーやルーフ、フォルランプベゼルに差し色を入れてもよし、単色でシックに決めてもよしの懐深さもこのデザインの特徴です。
このC3にはSUV版もあり、そちらはC3エアクロスというネーミングで販売されています。
■ルノー トゥインゴ(3代目)
モノスペースのミニマムカーとして1993年に登場したトゥインゴですが、2014年にデビューの現行(3代目)では2ボックスのハッチバックとして生まれ変わりました。
ボディデザインのモチーフとなっているのは、1970年代の名車ルノー5で、各部に見て取ることができる5の影響を受けた意匠は、自動車好きオヤジもうなる出来栄えです。
とはいえトゥインゴで特徴的なのは、かつてはスペース効率の問題などで諦めていたRRレイアウトを採用したこと(正確にはリアミッドエンジンなのでRMR)。
搭載にあたっては、エンジンの搭載角度やパイピングの隅々にいたるまで徹底的な効率化が図られるなど並々ならぬ努力が注ぎ込まれており、結果、3,645mmという 全長に大人4人が乗ることができるスペースを確保しました。
ハンドリングが軽く、強いトラクションを得られるRRレイアウトにより、普通のハッチバックには乗り味も魅力です。
■アルファロメオ ジュリエッタ(3代目)
2010年のアルファロメオ創業100周年を記念して戻ってきた”小さなジュリア”が、3代目ジュリエッタです。
初代がクーペ、2代目がセダン、3代目がハッチバックと、他メーカーではあまり例のない名称の使い方ですが、その根底に流れる「その時、国民に求められるカタチ」という、いわば時代に合わせた国民車という位置付けという意味を知れば、納得でしょう。
次期ジュリエッタがあるとすればSUVになるという噂もあるほどです。
そんな3代目ジュリエッタはとにかくイタリアの粋を集めた造形をしており、内装も外装も非常に個性的かつ美しいものに仕上がっています。
流れるようなボディラインはコンパクトながらもメリハリの利いた線を描き、愛嬌のあるヘッドライトにアルファロメオのトレードマークである大きな盾のフロントマスクがいかにもスポーティです。
パワートレインには元気のいい1.4Lターボと1.75Lターボが用意され、しっかりとした足回りも相まって日常使いにもスポーツ走行にも使えるハッチバックとして完成されています。
■フィアット パンダ(3代目)
パンダは1980年、オイルショックによる燃料費高騰によって世界から求められた燃費性能や経済性を重視しつつ126、127の後継として開発され、同社の回復に大きく寄与したと言われているモデルです。
ちなみにネーミングの由来は、『中国でたくさん売りたかったから』という、わかりやすいものでした。
2代目は、SUVに寄せた背の高いフォルムをまとって2003年にデビュー。
続く2011年デビューの3代目でもコンセプトは継承され、背高のっぽのハッチバックに仕上がっています。
全体的なデザインの共通項である”まるっこい四角”は、スクワークル(スクエア+サークル)と呼ばれるもので、愛嬌たっぷりのシルエットを形成。
インテリアにもスクワークルが採用され、特徴的で遊び心のあるものに仕上がっています。
いっぽう実際に乗ってみると、各部の見切りの良さやドライブポジションなども徹底的に考えられているようで物凄く快適。
2WDのほかに4WDの4×4も用意されています。
■DSオートモビルズ DS5
名車シトロエンDSの流れを汲むハイグレードハッチバックとして、2009年にシトロエンから発売された高級ハッチバックがDS5です。
2015年からDSオートモビルズがブランドとして独立したことを受けて、以降は同社の販売となっています。
落ち着きのなかにアバンギャルドな雰囲気をあわせ持つボディのサイズは、全長4,530mm×全幅1,870mm×全高1,530mmという堂々たるもの。
ハッチバックというよりもショートワゴンと呼んだほうがしっくり来るかもしれません。
インテリア(内装)は細かい部分にまでデザイナーの熱意を感じるさまざまなアプローチが盛り込まれていることが特徴です。
一般的なハッチバックのイメージとは異なり、すべてが楽しく高級な作りは、シトロエンの十八番をまとめたような1台です。
いま手に入れやすいラテン系ハッチバックを紹介しましたが、ヨーロッパ全体に目を向けるとこの他にもドイツにはVW ゴルフという巨人がいますし、日本へは導入されていないモデルもたくさんあります。
日本にも素晴らしいハッチバックは数多く存在しますが、個性を求めるなら断然ラテン系ハッチバックがおすすめです。